Interview
スペシャル座談会

阿保剛KID作品集ゲームサウンドトラック配信記念!
当時のKIDメンバーとスペシャル座談会

左から阿保剛(サウンドコンポーザー)、市川和弘(ゲームプロデューサー)、柴田太郎(ゲームディレクター)

いままで当社ではサウンドコンポーザー阿保剛が手掛けた、数多くのゲームサントラ作品を定期的にリリースしてきましたが、今回、以前所属されていたKIDブランドのゲームから9作品、音楽配信限定でサウンドトラックを復刻してリリースするということで、KIDの歴史を振り返っていきたいと思います。 ただ、KID設立から在籍された方は、本日はいらっしゃらないんですかね?

市川和弘(ゲームプロデューサー) 以下、市川:
いないですね。

市川さんが最初に関わりになったのは?

市川:
僕が1993年です。当時はグラフィックチーフ兼企画ですね。

柴田さんは?

柴田太郎(ゲームディレクター) 以下、柴田:
1997年に、バイトとして入りました。当時(KIDが)ボードゲームを作ってて、そのスクリプトとかイベントを作る担当ということで面接を受けた記憶があります。「ゲームで青春」か「テナントウォーズ」か。

阿保さんは?

阿保剛(サウンドコンポーザー) 以下、阿保:
1995年です。最初に担当したのは、PCエンジンの「Dead of the brain」。パソコンからの移植ですね。

最初は移植中心のゲームメーカーでしたが、徐々にオリジナルを開発してく流れだったんですよね。女の子ゲームをやろうというきっかけみたいなのは、社内にあったんでしょうか?

市川:
これはですね。とある、アダルトのパソコンゲームメーカーと仲良くなって。当時はパソコンのゲームをPCエンジンに移植するのが流行ってたんですよ。その仕事をバンバンやってるうちに、次世代機だのなんだのってなって。ちょうどセガサターンとか出始めたときに、最初の2年間はパソコンゲームの移植がOKだったんで、最初にお付き合いのあった会社と、「きゃんきゃんバニー プルミエール」を出して大当たりしたところからのスタートですね。そこから大量生産が始まりましたね。ものすごい大ヒットして。

市川和弘(ゲームプロデューサー)

その後、美少女ゲームのリリースが中心になってくという流れだったんですね。

市川:
そうですね。中心にやっていきつつ、移植ばっかりじゃなんなんで、たまにオリジナル作品を入れたりとかして、やっていくうちに、だんだんオリジナル作品も当たってきて、オリジナルの比率がだんだん増えてきたって感じですかね。

KID作品でパッとイメージが浮かぶのは、「シナリオシミュレーション」というか、テキストアドベンチャー作品ですが、当初は結構いろんなタイプのゲームを発売しているんですね?

市川:
そうですね。もともとそっち方向じゃなくって、ボードゲームとかいっぱい作っていたんで。そのためボードゲームをメインにいこうかっていうのもあったんですけど。あんまり売れなかったので、美少女ゲーム中心になっちゃったんですよね。

市川さんが入社した当時は、社員は何人ぐらいだったんですか?

市川:
いましたよ、そうですね、50人ぐらいいたんじゃないですか。

そのときからすでに開発スタッフは一通り揃っていて、自社で殆ど開発できる感じでしたか?

市川:
そうですね。最初の頃は受託(※他社メーカーから発売されるゲームの製作業務)メインで。たぶんほとんどの大手メーカーの受託をやってましたね。関東で一番デカい受託メーカーを目指すんだみたいな感じで、すごいいっぱいやってたんですけども。さっきの「きゃんきゃんバニー」が当たってから、だんだんだんだん受託はなくなってきました。

KIDブランドの作品群見てみると、「SDR project」とクレジットされてる作品がありますが、この「SDR project」とは市川さんが中心になったプロジェクトっていうことなんですか?

市川:
はい。そういうことです。

ちなみに「SDR」とは何の略なんですか?

市川:
いやー、これはね。

柴田:
表向きはセンチメンタル、ドラマティック、ロマンティックなんですよね。

市川:
要するに、美少女ゲームを作る上での押さえるべきポイントをなんです。泣きの要素に、萌え、そして劇的な展開っていう3つ入れました。「SDR project」は美少女ゲームのブランドとは限らないんですけど、、ほぼそうですね。

なるほど。

市川:
それは後付けで、本当は僕の乗ってるバイクがそういう名前だったんでそうなったんです。後から考えてこじつけました。

柴田:
YAMAHA SDR。

市川さんはオープニングムービーをずっと自作されてるんですよね。

市川:
KID時代は全部やってます。「ここでこういうの欲しいんだけど作ってくんない?」って、各部署に別々に「これ3Dのシーン欲しいから」とか、「ここでこのキャラが振り返るといいな」みたいに、いろいろ勝手なお願いをして。


柴田さんが具体的に担当になった最初の作品は?

柴田:
ちゃんと頭から最後までっていうのでいうのであれば、「Piaキャロットへようこそ!!」の移植ですかね。その後、「バーチャコール」やって、そのあと「輝く季節へ(ONE)」。最初の頃はスクリプトでしたが「輝く季節へ(ONE)」でディレクターになり、担当しました。

柴田太郎(ゲームディレクター)

市川:
ディレクターとして全部統括して初めてやったが「メモオフ」なんじゃないの?

柴田:
というか、それもかなりキツかったですけどね。スタッフィング的なところというか、、初めてディレクターをやるにもかかわらず、教えてくれる人がいないっていう状況の中で。うちの会社、何か指導するっていうよりは、見て学べっていうところが強かったですね。だから僕も今もそうですし、他のスタッフも「教わった記憶ないな」って、よく言ってますね。

美少女キャラクターゲームというか、個性的な作品がだんだん増えてくるんですけど、柴田さん自身も作品的には結構好きだったんですよね?

柴田:
もちろん好きでしたけど、一辺倒なテンプレート化してとかではなくて、幅広くやってて。


阿保さんはKID入社以降、何作品ぐらい担当しましたか?

阿保:
数えないとわからないですね。サウンドスタッフが1人になってからはほぼ全てに関わってますね。

阿保剛(サウンドコンポーザー)

阿保さんはスタッフからこういう曲を、って具体的に発注をもらったりすることもあれば、阿保さんがシナリオを見て直接提案するということもあると聞いたんですけど。

阿保:
作品毎によって様々ですね。指定がなくても、日常や誰々のテーマとか、キーワードだけで自分で考える作り方をします。

すごく難しかった作品って今までの中でありますか?

阿保:
時間があれば大体作れると思うんですけど、一定の期間の中で、まずハード覚えて、環境や音色を作って、楽曲作って、効果音作って…と詰め込むと難しい。

そうか。すべてのコンシューマーハードをやってるんですよね。

阿保:
とにかく2000年代ぐらいには様々なプラットフォームで開発していました。

それぞれ同じ機種の中でも、ゲームの開発の中でサウンドシステムが進化していったりするんですよね?

阿保:
バージョンアップで仕様変更などもあります。セガさんはかなり開発しやすいですね。

阿保さんは音楽的に不得意とかありますか?

阿保:
苦手なのはあります。自分は楽器演奏をしないので、演奏ベースで考えるとアドリブ周りとか時間がかかるんです。

阿保さんの中ですごく手応えがあって、一番気に入ってる作品は?

阿保:
KIDの中、後期になればなるほど気に入ってるんですけど。「すべてがFになる」とか。

市川:
2002年だ。新しいな。

柴田:
2002年は全然新しくないですよ。

阿保:
少しリズミカルで暗い曲とか作るの好きなんですけど、それ系で。まとめたいなと思ったのが「すべてがFになる」。「メモオフ」なんかもそうですよね。

市川:
阿保くんとは「こういうのもいいんだけど」って、音楽の趣味が結構合うもんね。Massive Attack(※イギリスの音楽ユニット)とか。

Massive Attackとかを「メモオフ」で、っていうことなんですか?

市川:
一番最初それでしたよ。Massive Attackでそのまま全部。

阿保:
そして、Goblin(※イタリアのロックバンド)です。

市川:
シーン毎に全部曲をピックップして、これでお願いしますって。

阿保:
Robert Miles(※イタリアのミュージシャン)とか。

市川:
それはたぶんね、「Infinity」かなんかじゃない。

阿保:
そうかそうか。

市川:
その前にね、もっとものすごい大作があって。「クロスゲート」という作品があって。セガサターンなんですよ。阿保くんすごく関わってたと思うんだけど。

阿保:
作りましたね。

市川:
セガサターンの3Dを駆使した、もう最高のゲームを作るってものすごい金額をかけて、億単位の制作費をかけて3Dと2Dキャラの融合みたいなゲームを作ってたんですよ。途中でポシャりましたけどね。発表だけしました。

阿保:
E3で発表しました。

市川:
発表だけして、「おー!」ってなったんですけど、ちょっと途中でいろいろあって。その音楽をすごい頑張ってくれたんです。


今回のラインナップは2000年から2004年までの5年間の中の作品なんですけど、この時期の作品が一番阿保さんの印象的にも強いという感じなのですか?

阿保:
なんでこのリストになったかというと、全部内蔵音源で演奏してる。

柴田:
これ以降は違うんですよね。

阿保:
今まで音楽配信でサントラをリリースしてたじゃないですか。今回内蔵音源でハイレゾ化出来無かったタイトルでまとめています。これ以上新しくなるとストリーミングになるので、もう配信で出してたり。

それでは、今回リリースするサントラの、具体的な作品の感想を伺ってく感じにしましょうか。一番最初は「My Merry May」。

My Merry May(Dreamcast, PlayStation®2)

Spring colors

市川:
これはですね、とある人がもともと原案を持ち込んで、それ面白いねって言って、よしやろうって、最初僕がやろうっていってスタートして、当時いたディレクター(しまぞうさん)に担当してもらった。この作品はオリジナルです。完全オリジナルです。

「My Merry May」「My Merry Maybe」と、もう1つあるんですかね?。

My Merry Maybe(Dreamcast, PlayStation®2)

My Merry Maybe -Spring colors-

市川:
2つ合わせて「with be」という作品があります。

この作品の音楽はどういう指定で作られてるとか、具体的な背景を教えてください。

阿保:
最初しまぞうさんからバンド的なものって言われたんです。で、主題歌のARCHIBOLDさんに合わせるような感じであとはお任せしますって。これは(開発期間が)結構駆け足だった印象がります。「すべてがFになる」と同時進行だったんですけど。

阿保剛(サウンドコンポーザー)

阿保:
時間がなかなか取れない中で作りました。

何作品か同時に動かしてることが多そうですね。

阿保:
大体2作平均です。たまに3作品とかはありますね。

そういうときって頭の切り替えはどうするんですか?

阿保:
もう、その日は1つの作品だけにするんです。

曲ができてきて、この作品かな、もしくは別の作品に合うかなじゃなくて。

阿保:
じゃなくて、もう。今日はメイン作品の日にしよう、そういう感じですね。

柴田:
変更して他の機種に移植とか、そういう作業がかぶってきたりすることは?

阿保:
もう同時に書いて、「My Merry May」はドリームキャストが先。

柴田:
で、後からプレイステーション2版を。

阿保:
ドリームキャストでまず作って、大体できてからプレイステーションに移植です。

移植の時に、機種によってドライバが違うことで苦労することがありますか?

阿保:
開発環境が丸々違うので。

柴田:
今は基本的にwavデータですが、昔はサウンドの不具合が結構ありましたからね。1ループ目は問題ないんですけど、2ループ目、3ループ目はずれてたりとか、音消えてってたりとかいうのがあって。

阿保:
ブチブチ音がなるとか、音割れしちゃうとか。

柴田:
今は今、昔は昔でそれなりにデバック、工数は変わってないんじゃないかと。

阿保:
でも、サウンドはかなり楽になりました。

市川:
サウンドが一番楽になってんじゃないかな。

阿保:
だと思いますね。ただ、作り甲斐があるのはやっぱり内蔵(音源)の、この頃の時代ですね。

市川:
そうですね。

阿保:
作り手の個性っていうのが出せる、こんなことしちゃえっていうのを。

この「My Merry May」シリーズの、ゲームに対する感想はいかがですか?

阿保:
物語が結構深くて。で、デバック兼ねて自分でプレイするんですけど、それで結構やり込みましたね。

阿保:
アンドロイドが感情を持って、人間との違いは何なんだっていう、ちょっと哲学的な、ロボットだから人間じゃないのかっていう。その辺りがすごい細かく描写されてた気がしますね。


次は、2000年の「夢のつばさ」。これはいかがでしょう?

夢のつばさ(PlayStation®2, Dreamcast, Windows)

夢のつばさ -Instrumental-

市川:
「メモオフ」を普通の舞台でやっていて、SFっぽいのを「infinity」でやってるので、ファンタジーっぽい作品を作ろうって考えて。僕がプロデューサーしました。一番苦手なジャンルです。

当時は作ってて結構大変だったんですね。

市川:
うーん。大変ですね。なんかこう、自分で作っていてピンとこなかったですね。飛行機に憧れてる話で、飛行機にまつわることがパーッと出てきて、登場人物とかもなんか飛行機の名前から取ってたりとかなんとか、でね、その中に桜花って名前の子がいて。これ、特攻機じゃないですか?ユーザーから「こんな悲惨な飛行機の名前付けるなんて」っていうお叱りのお手紙がきたんですよ。それに対してものすごい長文でこうこうこういう理由で付けましたって返したら納得してくれましたよ。もともとそういうことはわかった上で付けていて、(ユーザーの)皆さんにそれをちゃんと知らしめて、こういうことがあったんだよって悲しい事実をみんなに広めるべきだと思うみたいなことを確か言った気がします。軽はずみな感じで付けたわけではない。決してないっていうのを伝えたら、それだったらわかりましたみたいな感じでした。

柴田さんはこの作品についてどう感じてましたか?

柴田:
横で開発してるの見てて、色使い、キャラクターの色使いが淡いんで。再現するの大変そうだなって思ってて。キャラデザさんの色というか、デザインセンスの方。でもうまくもっていけて。ただ一番最初がセガサターン、そしてプレイステーションの順だったんで、ドリームキャストになってからようやく本領発揮できたんじゃないかなっていうイメージですね。

そのときキャラデザは、原画の紙のイラストで来るんですか?

市川:
もちろんです。プレイステーションの頃はですね、減色してたんで、16色とか256色に必ず落としてから表示されてるんです。フルカラーで表示されてることがあり得ないんですよ。プレイステーション2とかドリームキャストだとまいっかってフルカラーでいっちゃうときが結構ありますね。

柴田:
なので立ち絵は256なんですけど。と解像度が全然違うんで、プレイステーションの時も頑張ってはいたんですけど、やっぱり普通にVGA信号で表示されるのはやっぱきれいですね。文字がまず全然違います。

市川:
確かね、「夢のつばさ」はオープニング曲をサイトロンレーベル(当時)にお願いして、阿保くんはレコーディング一緒に行ったんじゃなかったっけ?

阿保:
でも、これって主題歌用に作った曲じゃなくてBGMの曲。

市川:
そうそうそうそう。BGMの曲を無理やり主題歌にしたんだよ。

阿保:
BGMに歌を付けていただいた。その時プロデューサーの志倉(千代丸)さんにすっごい難しかったって言われて、ちょっと申し訳ないと思って。

柴田:
これプレイステーション2版は出てないんですね。

阿保:
ないですね。サウンドは途中まで開発しました。

柴田:
オープニング、作詞が江幡育子さんで、編曲が磯江俊道さんですね。歌が本井えみさん。

市川:
これが一発目(志倉プロデューサーとの一番最初)じゃないですかね、歌お願いしたの。。

柴田:
時期的にそうかな。

市川:
これをお願いして、その次に「メモオフ2nd」で、ドバっとやってもらってみたいな。

柴田:
そうですね。そうだと思います。

他にBGMの特徴はありますか?

阿保:
絵柄に合わせてホワホワした浮遊感の音色をいっぱい作って、その音色を使って曲を作った流れです。結構実験的な作り方をした気がします。

実験的な作り方ってのはどういうことなんですか?

阿保:
普段同じ鍵盤の位置を使って演奏しがちなのですけど、そこは押さないっていう。Cマイナー封印や黒鍵から始めるとか。

最初にテーマを決めるんですか?それとも開発中に徐々に作っていくものなんですか?

阿保:
いや、一番最初に決めます。

この頃はすでにもう効果音SEとかも阿保さんが全部担当してたんですよね。ちなみにSEって生音と合成するんですか?

阿保:
合成もしますし。全部作るときもありますし。ケースバイケースで。

ゲーム機による違いというか、何か特色みたいのはあるんですか?

阿保:
変換方法の違いや、ビット数や波形レベルの工夫など特色あります。

一長一短なんですね。

阿保:
同じ音色セットでもメモリ入らなかったりとか。そのメモリの中に効果音も全部入れないといけないです。エフェクターも自分で作るんですよ。エフェクターのワークラムとか場所も空けとかないといけない。勉強する意味で「夢のつばさ」がドリームキャスト最初?

柴田:
ドリームキャスト最初はたぶんこのタイミングだと。

柴田:
その途中に「メモオフ」のドリームキャスト版が入ってるって感じですね。


じゃ、次にいきましょうか。「SDR」になったのはこの「Ever17」からなんですね?

Ever17 -the out of infinity-(Dreamcast, PlayStation®2, PlayStation®Portable, Windows)

Karma

柴田:
メモオフの一番最初は「SDR」はなかったですね。うん。

市川:
いつでしょうね?

阿保:
ジャン、ジャン、ジャン、ジャーン(※オープニングのSDRの音)

柴田:
そうそうそうそう。

市川:
音は阿保くんに付けてもらったんですよ。僕がモーション作って、それを元に音を付けてねって。

阿保:
「infinity」には入ってなかったでしたっけ?

市川:
入ってないんじゃない。

最初の「Never7」にいきましょうか。まず「infinity」シリーズは、お話的にはつながっていないのですよね?

Never7 -the end of infinity-(PlayStation®2, Dreamcast, PlayStation®Portable, Windows)

Beginning of Infinity -Cure-

市川:
つながってはないけど、同じ世界観を微妙に共有してるという感じです。

でも、やる人がやれば、すぐにつながりを体感できるようなイメージっていうことですね。

市川:
そうですね。話自体は全く別物なんですけども、世界観の一部がちょっとつながってるだけで。この「Never7」の前に最初の「infinity」があるんですけど。これがですね。当時KID倒産かっていうぐらいのピンチに追い込まれた作品で。

マジですか?

市川:
はい。倒産寸前だったんですよ、これのせいで。

これのせいで?

市川:
はい。1キャラ攻略できないバグが。

阿保:
回収した?

市川:
回収といっても回収できないんすよ、各個人の手元にあるから。当時パッチを当てるとかそういうこともなくて。もちろん、セカンドロットから差し替えてるんですけども、どうしても回収とかできなくて、どうしようもなくって。4キャラクタをクリアしたデータをメモリカードに入れて送ってくれれば、5キャラ目のフラグを開いて戻すみたいな感じのデータをセーブして送り返すっていうのを手作業でずっとやってて。でもその対応が意外に評価されていて。で、なんとかなったみたいな。

市川和弘(ゲームプロデューサー)

柴田:
ファーストロット版が高く売られてたりして。

市川:
要するに、初回製造版は1キャラ攻略できないと。

柴田:
全クリできる仕様になってなかった。

市川:
で、結局のところ全体をクリアしたところで、この根本の謎は何も解決されてないんですよ、実は。

柴田:
そうそうそう。

市川:
これはそういうものだと割り切ってくださいっていう前提で出しました。

柴田:
そうしたらね。

市川:
なんで人々はループするのかっていう。

柴田:
その最後の理由というか、根本を何も明かしてないっていう。

市川:
そこまで考えてなかったところに、ユーザーからすごくコメントを頂いたので、じゃ、考えますってことで「Never7」でその理由を突っ込んだんですよ。さすが打越(鋼太郎)くん(シナリオ)と思ったんですけども、ちゃんと完結しましたっていうので、「Infinity」はなかったことにはせず「Never7」が本筋のゲームみたいな体になってます。

柴田:
ここから素数使い始めたんだもんね。

阿保:
7、17、11。

市川:
「Ever17」は、その勢いのままにってわけじゃなくて、全く全然関係ない別のタイトルとして企画していて、これシリーズ化したほうが?ってなり、途中から「Infinity」シリーズにしたんです。

柴田さんはどうお感じでしたか?

柴田:
若干デバックだったりとか、アイディア出しだったりとか、そういうのは出てましたけど、そこまではって感じでしたけど、確かに「Never7」に関しては、まずタイトルをガラッと変えたのが、はたから見てても驚きだったし。

市川:
これね、「Never7」の後、もう一個いい試みがあって。ユーザーからシナリオを募集しましょうっていうのがあって。

実際に採用されたんですか?

市川:
結構いっぱい採用して。

柴田:
それをゲームを発売した後からアペンドっていう感じで、こっちで新たにスクリプトを組んで、ダウンロードしてもらって楽しむというドリームキャストの仕組みを使わせてもらったっていう。

市川:
音声は入んないんですけど、応募してもらった演出は全部バーッと入るっていうので、すごいいっぱい応募があって。

柴田:
これがまたね、作業的に膨大なんですよね。

阿保:
組み直しですね。

柴田:
そう。スクリプター1人が1ヶ月ぐらいこれをやるために張り付いて、ずっと作り続けるという。

市川:
初めての試みで結構評判良かったですよ、これも。

柴田:
そうしたらそれを「メモオフ2nd」でもやるということになりました。

柴田太郎(ゲームディレクター)

市川:
「Never7」に続き、そこから「Ever17」が、なんの関係もないところから無理やり続編に変わっていったっていう経緯につながります。最初はパニックものかなんかにしようかと思い、閉鎖空間から脱出すんのがいいよねみたいな感じになり、そこからどんどん膨らんで「infinity」シリーズに。

この2作品の音楽についてはいかがでしょう?

阿保:
これは作るの楽しかったですよね。「Never7」はもともと「infinity」があったので、そのまま移植と思いきや、プレイステーション2用に全部作り直したんです。

柴田:
「Never7」は一番最初ドリームキャストです。プレイステーション2版はその後に作って。で。同時に発売。

阿保:
サウンド組むのは開発は同時でした。ですので、最初にプレイステーション2を作って、たぶんドリームキャストはそれを移植しています。「Ever17」はシナリオの中澤(工)さんといろいろお話しして。方向性から曲の特徴とか、かなり細かく。テキスト、キーワードもいっぱい並んでて。

阿保剛(サウンドコンポーザー)

阿保:
歴代ゲームの中で、濃いサウンドリストは「Ever17」が1位、2位ぐらいに入るんじゃないかと。

濃いサウンドリストのほうが作りやすいですか?

阿保:
そうとも言えないですね。概念固まっちゃう部分もあるので、それをベースに作っていく。

市川:
「Remember11」は完全な続編として最初から作っていて、これも結構事件が発生してるんですよね。これはね、別にネタバレしてもいいんでしょうけど、もともと全3章からなってたんですよ。で、時間がなくてどうしても3章目が作れなかったんですよ。そこで断腸の思いで未完のままの状態で売ることになったんです。

Remember11 -the age of infinity-(PlayStation®2, PlayStation®Portable, Windows)

Animus

それはユーザーは気づいていらっしゃったのでしょうか?

市川:
激バレですね。その後、一生懸命頑張って続編を作ろうとしてたんですけども、いろいろあってできなくなって。

柴田:
でも、2章で一応終わる形にしたおかげで、その後に続く3章の部分、元のネタ自体が割と使えなくなってて。やるとしたら大きく作り変えになっちゃう。

市川:
ユーザーが自由にね、終わりを考えてくれるんですよ。いろんな人が解釈、たぶんこうだろうというのがバーッといっぱい。こっちのほうが面白いかもってなって。

市川:
この後これよりつまんないもの出したらカッコ悪いしなって、だんだん(作品が) 出しづらくなっちゃったんですよ。

「Remember11」は、社内的にはどう見えてたんですか?

柴田:
要はプロジェクト外の人間からは、まだ終わらないかなというところ、ですよね?

阿保:
かなり大きなプロジェクトでしたね。

柴田:
KIDの制作スパンというか、制作速度から考えると、他のタイトルよりすごく延びてたんですよね。

市川:
今まで1年で作ってたのが、2年になりましたなんて、そんなレベルですよ。

柴田:
いや、それこそ冷静に考えれば倍なんですよ。

市川:
大体10か月とか8か月とかで作ってましたよ、どのタイトルも。でも、これだけは前回売れたからもうちょっと頑張ろうってやって、それでもできなかったから、結局販売しちゃいましたけど。

阿保:
いろいろ足してって、オープニングなんかも最後の最後に足したりとかしてましたもんね。

阿保:
輿水さんが原画描いて、アニメを足してって。

市川:
社内のアニメーターが。

柴田:
だから、アニメ塗りじゃなくてどっちかというとCGっぽい、イラスト塗りのテイストで動いてましたね。

「Remember11」の音楽はどうですか?

阿保:
もう完全に心理学用語でまとめちゃう感じ。ほぼ指定なしだったんですよ。大体こんな感じのを作ってくださいって。作りたいものをガンガン作った感じです。

そういえば阿保さんって曲名がBGM1とかではなく、常にきちんとあるんですね。

阿保:
最初に曲名を付けちゃうタイプですね。

ゲームのBGM作る時に曲名バーッとリストアップして、そこから作っていくみたいな。

阿保:
そうですね。曲名メモテキストみたいなのがあるんですよ。それが結構長いんです。曲名は結構ネタバレしない程度のメッセージが込められるんで。

「Remember11」も結構ドラマチックというか、精神的な、精神世界的な。

阿保:
そう。物語がそんな感じなんで。いろいろ音源的にも実験してます。これも全部内蔵音源で作るんですけど、使えるメモリ内にフレーズを取り込んだりとか、楽器じゃない音色を作る、っていうのが多いですね。音源、シンセサイザーは自分で作るんですけど、変な音をいっぱい入れるとか。音色作りが結構曲作りの3割ぐらい占めてる。

それが同時に進行してくってことなんですか?。

阿保:
最初に音色をガーっと作ってます。音色をほんと1ヶ月ぐらい使って、シンセ回りを作って。

キャラクタ等のイラスト素材ってのは、音色作り等の意識の中に入ってきますか?

阿保:
物語がほとんどですね。

市川:
(ゲーム制作という意味では) 「Remember11」が一番頑張って作った作品じゃないですか、きっと。

柴田:
事前体験版をPC版で作って配ったりしましたね。

市川:
一番頑張りましたね。


そして、「てんたま2wins」いきましょうか。これはどういう作品でしたか?

てんたま2wins(PlayStation®2)

てんたま-2wins-

市川:
これね、語れる人がいないんですけど。

市川:
最初プレイステーションで出て、これは、珍しく僕じゃない人からのオリジナル企画の提案で。これでスートした珍しいケースですね。

阿保:
「てんたま」は自分じゃない方がサウンド作られて、「2wins」作るときに、その方の曲を何曲かアレンジして。

市川:
これは社内でちょうど同時期に「夢のつばさ」を作っていて、「どっちも天使じゃん、かぶってるんじゃない?」って。

柴田:
確かに。「てんたま」のときですよね。

市川:
「どうせやるんだったら、設定共有したほうがいいじゃないの?」って、僕が「夢のつばさ」を作ってたから言ったんだけど、しまぞうさんが拒否したから、「じゃいいよ。自由にやっていただいて」みたいなことに。そんな険悪な感じじゃないですけど、そういうことがありました。

柴田:
当時のそのKIDタイトル、割と真面目なんですよね。全体的に作りというか、演出だったりとかが。

阿保:
陰りがあったり

柴田:
陰があって、しっとり系の。「2wins」もそうですし、「てんたま」もそうなんですけど、お話自体割と重いことをやってたりするんですけど、その演出だったりとか見せ方がとてもライトな感じで「うん。こういうのいいよね!」って思ってたんですよね。あくまでもストーリーの根幹の部分はコメディーではないんですけど。やっぱり、ずっと真面目な感じ一辺倒だと疲れちゃうみたい。

市川:
だから、僕が真面目なほう、真面目っていうか。

柴田:
そうそう。

市川:
現実路線が好きなので、こういう作品、他にないからいいんじゃないのっていう、逆に。

柴田:
だから、ここビジュル見てもカラーだけで考えると「てんたま」と「My Merry May」系は。

柴田:
違うと思いますもんね。

「2wins」の音楽はどうですか?

阿保:
「2wins」はもう明るく明るく。暗い部分は暗い曲用意しますけど、基本的には明るい曲で作りました。

明るい曲をたくさん書くっていうのは、作ってるほうは大変だったりするんですか?

阿保:
そこまで大変ではないです。作りたいように作るんで。

曲をイメージするために、バリバリ設定を読みこむという感じなのでしょうか?。

阿保:
プロットを読んで。プロットと同時に企画書があり、そこでキャラ紹介がされてるので、

スクリプトだと、キャラ設定の中で雰囲気とかをそのまま直接セリフに反映させたりとかすることもできると思うんですけど、サウンドはそういうわけにいかないじゃないですか。

阿保:
そこまで読むときもありますけど。

例えば声優さんの声が入ったりするのは、もっと後ですよね?段階としては。

阿保:
もう全然。曲ができた後に声が入る。

後で作り直したりすることはないですか?「え!こんな声なの?」って。

阿保:
その頃には次のタイトルいっちゃってて。

柴田:
そうですね。制作陣の中では阿保さんが一番最初にデータ上げていただいてるので。他の要素はギリギリまでやってるから、ゲームがマスターアップする頃には、阿保さんは既に次のタイトルに入ってますね。

阿保:
もう次のタイトルの後半ですね。音ってキリがないので、いくらでもいじれちゃう。区切りを決めて次へって。

逆にいうとゲームのコンセプトに一番最初に、近づいてるのは音楽なのかもしれないですよね。

阿保:
初期段階のイメージに近いような感じですね。

柴田:
阿保さんのBGMはシナリオの書いてる途中に上がってきたりすることもあって、そうするとそれをライターさんにお渡しして、さらにそこからイメージが湧きだしてっていう。

キャラクターづくりに音楽も当然寄与されてると。他に「てんたま」で覚えてらっしゃることはありますか?

阿保:
「てんたま」の曲の中に松尾さん(グラフィック)の声が入ってます。

柴田:
何で?

阿保:
加工して。合いの手みたいに「はい、はい、はい」って。突然思い出しました。社内のどこかで録らせてもらった。

じゃ、次いっちゃいますね。「Iris」。

Iris 〜イリス〜(PlayStation®2, Dreamcast)

雪と桜と -Main theme-

阿保:
この中で一番ファンタジー要素がないやつかもしれません。割と現実の日常の話なんで。

柴田:
キャラクターがダントツに幼いんですよね。

阿保:
設定が中学生なので。

阿保:
すごいまろやかな。すごいソフトな感じ。受験中の物語。常に日常みたいな話だった気がします。

曲はどうですか?

阿保:
ほんわかほんわかです。ベルばっかりっていう作りですね。いろんなベル録って。

ベルを「録る」っていうのは生音を録るってことですか?

阿保:
いや、シンセサイザーで音作って、それでサンプリングして。

阿保:
緊迫シーンの曲は殆どないと思います。

落ち着いたトーン。

じゃ、最後「Close to」いっちゃいましょうか。

想いのかけら -Close to-(PlayStation®2, PlayStation®Portable)

Sunlight colors

市川:
声優さんの音声収録をしている時に、そこでニュース発表でセガドリームキャスト撤退っていうの聞いて、「えーー!!今収録してんのに!」って。超ドヨーンってなった記憶がありますね。

柴田:
(ハードの価格が)9,900円になった時ですね。

市川:
「なぬー!」ってなって。テンションが超下がりましたからね。

セリフを録ったのは、たぶん6人くらいだったと思うんですけど、ほとんどが3人のセリフだったんですよね。3人のセリフ量がすごく多いなと思ってたんですよ。それですごく、内省的な作品だなと思ってて。まずこの「Close to」って、ゲームは2段階あるんですか?

阿保:
「Close to 〜祈りの丘〜」と「想いのかけら -Close to-」があります。。

市川:
移植した時、名前変わっただけです。

阿保:
ところがですね、サウンドがまた全然違うんです。

阿保:
「Never7」と一緒で、作り直しのやつ。

阿保:
サントラCDも2種類あります。。

市川:
プログラム的にも相当変えたな。

柴田:
見せ方って変わってます?

阿保:
結構時間をかけてたような気がします。

市川:
すごく頑張って、QuickTime VRっていうのが昔あって。

阿保:
もう今はない。

市川:
技術をちょっと使って。

柴田:
アレンジというか、部屋をこう、ただ横にヒューじゃなくて、こういう感じに見えるようにして。

市川:
魚眼っぽい背景を作っといて。

市川:
2Dの背景が3Dのような空間に見えるように作っていて、書き割りなんだけど立体に見えるような、そういう技術で舞台を作ったんですよ。超大変でしたけどね。

柴田:
どうしても描き割りの椅子の後ろにさらに何か置きたいとかっていう欲求が出てきてしまうから。

市川:
背景3Dで作って角度を5度ずつ変えて、何度も何度もレンダリングして、それを合成して一枚の画で貼っていくんですよ、いろんな角度のものを。それを何回も何回もやって。だからこれ背景1シーンしか作れないってなったので、主人公のお部屋しかやってないんですけど。

阿保:
ルームシーンですね。

市川:
これもともと、女子の部屋覗けると面白くない?みたいな、確かそういう不純な動機からスタートしたんですよ。

柴田:
不純な動機からスタートしてるんだけど、行き着くところが割とピュアな感じで。

市川:
そこからそういうシーンが始まって、だんだんだんだん真面目に話を作っていって、結構良い話ができましたね。

この「Close to」、サウンド的にはいかがですか?

阿保:
シナリオ読んでると暗い話にしか聞こえなくて、でも、キャラはすごい明るい、かわいくて。その違いをつけようかつけないかって思いながら作ってます。暗いの作るの大好きなので、作ってる間は楽しかった。

暗い音楽のほうが情景描写がよりリアルですもんね。


ちなみに、曲作りで「成熟」を感じるような手ごたえはありますか?やっぱり初期の頃は、自分でもちょっと若いなと感じたりするもんなんですか?

阿保:
もう、凄く思いますね。ただ、ちょっと経つとこれで良かったのかなと思ったりとか。

阿保剛(サウンドコンポーザー)

また移植で、同じ曲を違う解釈でっていうのもあるわけですもんね。

阿保:
でも、基本的には古いのは古い。

そうやって考えると、現在ではゲームの機種は違っても、サウンドは同じWav(音源ファイル)が流れますものね。

阿保:
そうですね。作りやすいので、それはいいんですけど。

システム的に合わせていかなきゃいけない部分ってのがなくなるだけでも。

阿保:
コンシューマーの歴史ですもんね。

柴田:
(今回は)セガサターンからプレイステーション2までの歴史ですね。4機種。

阿保:
携帯機種とかもこの間に入ってると思う。

阿保:
ネオジオポケットとか、ワンダースワンとか。

ワンダースワン持ってた。

市川:
スーパーファミコンやってないんだっけ?

阿保:
スーパーファミコンはKID入る前にやってましたね。開発の歴史はコンシューマーの歴史って。

市川:
メガドライブとかね。

それでは、市川さん、この時期の総括をお願いします。

阿保:
この時期って4年ぐらいの間ですもんね。

柴田:
作品リストで見るとこんなに出てるんだって。ゾッとする。

市川:
この時期はですね、なんだろう、3~4ヶ月に1回のタイミングで企画を立ち上げてた気がします。立ち上げてはどんどん次へ次へと進んでった気がしますね。

阿保:
会社の引っ越しも多かった時期ですよね。

市川:
多かったけど、結局大井町で落ち着いて。

柴田:
長かったですね。

柴田:
一時期「月刊KID」って、毎月タイトルが出るって言われてて。

阿保:
「メモオフAfter Rain」とかその辺り、すごかったですよね。

柴田:
もう僕の自業自得なんですけど。

市川:
あれは、細切れに出してるだけなんだけどね。

駆け足ですみません。本日は本当にたくさんのお話を伺うことができました。また好評でしたら、阿保さん作品の集大成となるべく、その他ゲーム作品の配信サントラ復刻シリーズをこれからも検討してまいります。本日はどうもありがとうございました。

2020/8/20
@MAGES.Meeting Room BABEL
写真撮影:森田恭司

阿保剛KID作品集シリーズ